2010年4月20日火曜日

山の穴守

山の穴守
[2009年07月31日(金)記述]

五日市から檜原そして奥多摩にかけては秩父帯(中帯、南帯)と呼ばれる。その秩父帯にはチャートが所々点在しているが、同様に石灰岩の固まりが地表近くに突き出している箇所がある。そして、その幾つかは鍾乳洞を形成しているのである。



その鍾乳洞のひとつを穴守している老婆は、むかし、今は亡き夫とともに苦労してこの鍾乳洞を開いたのだという。いまは奥山の鍾乳洞へ訪れる者はまばらだという。以前、度々心ない来訪者によって鍾乳洞に特徴的なつらら状に成長した鍾乳石を持ち去られ、ほとんど鍾乳洞の特徴的な景色は失われてしまった。しかし、ここへ穴守に来る事が喜びであり、そしてそこへ訪れる人がある事がとてもうれしいという。若き日の夫との苦楽の想い出は、自然とともにあり続ける。そこへ訪れる者があるとき、過去と今に股がる彼女の想い出という名の夢に、現実のぬくもりが与えられるのだろう。訪れた我々がすこし控えめで優しい彼女の話声に聞き入ると、彼女の目元は薄らと滲んでいた。(文責:田賀陽介)




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