論考資料2(環境の役割)

環境の役割


=====================

この稿を綴っていると、どうかすると、遠くの方で、波の音がする様に思えることがあった。あの音は生まれて十七の歳になるまで毎日聞き続けてきた、いわば懐かしい子守唄だった。
ジッと耳をすますと、風が何の風であるか、あの波の音で判る程になっていた。微妙なる海の感覚が、そのまま私の心へまでひびいてきたのである。それほど親しい世界であった。
私の家は石垣一つで海と隣していた。潮が満ちるとドタリドタリと石垣の根を打った。風のある日は沫(しぶき)が石垣を打ち越して屋根の上へザザと降った。北風の強い日などは、更に屋根を越えて、家の前に道に降った。

「周防大島を中心としたる海の生活誌」昭和11年2月11日、宮本常一著

====================================


F.ブローデルによれば、マルクスは資本主義の始まりを16世紀としているらしい。そして、資本主義(capitalisme仏)という言葉は、曖昧に乱用されて非常に厄介な代物で使いたくないのだがそれに代わる定義が見つからないという。
ただ「資本財」という言葉は「実際、手にとること、指でふれることができ、曖昧さなにし定義しうる」と言っていて、その特徴は「蓄積された労働」であるという。

「たとえばいつかわらぬ遠い昔に遺書を取り除いて開かれた村域内の畑、たとえばあまりに古い時代に作られたので、もはや誰もいつの時代のことかわからない粉挽き小屋の水(風)車、ガストン・ループネルによれば原始ガリア時代にさかのぼるという、石ころの多い、スローの茂みに縁取られた方々の村道、これらの資本財は遺産であり、多少とも長持ちする人間の構築物なのである。



交換のはたらき1物質文明・経済・資本主義 15世紀 - 18世紀 Ⅱ-1 )p299下段」
フェルナン・ブローデル著、山本淳一訳、みすず書房、1986年4月11日発行