2010年4月21日水曜日

ケクロモジ

クロモジの生育環境について
[2005年12月05日(月)記述]

【1.クロモジの枝葉の様子】

四国でみつけたクロモジはクスノキ科クロモジ属の亜種、ケクロモジのようです。

本州などに普通に出現するクロモジの葉より一回り以上大きいようで、成木の葉身は12cmから15cm以上あります。そして葉先が少し細長くのびています。クロモジは無毛ですが、ケクロモジの葉の表と裏に毛が密生しています。成長の過程で毛の密生度が変わってきますのでどのぐらいの密生度か、ということは一概にはいえません。また枝先に3枚から5枚程度の葉をつける様子はクロモジと変わりがありませんし、発色の良い深い緑色の枝に黒い細長い斑点縦に連なって模様になっているのもクロモジと同様です。

ケクロモジ 徳島県市場町2005年11月13日撮影



【2. ケクロモジの枝ぶりの様子】

ケクロモジの枝は地面が平らであれば、四方に枝を伸ばし横に広がるように成長しています。葉は互性につき鮮やかな緑色が目立っています。阿讃のケクロモジの立地は傾斜が急なので下り方向に向かって放物線状に枝がのびています。



立地に寄って同じ種類の樹木でも枝ぶりの様子は違ってきます。少し分かりにくいですが、写真の株立ちして枝先の方に黄緑色の葉っぱがついてるのがケクロモジです。斜面の下の方に向かってしなるように枝が伸びています。どんな植物でもそうですが、植物のもつ枝付きの特徴以上に光の方向や量と重力によってその木の立ち姿は変化します。



【3. ケクロモジの樹形の比較】

同様の阿讃山脈のケクロモジでも大滝山(海抜945m)のヒノキ林の林内に生えているケクロモジの樹形は異なっています。この付近は香川県の自然公園と大滝山西照神社の社叢林
(しゃそうりん)となっているので植物採取はできません。このヒノキ林は間伐されて、下枝も打ち払われているので、明るい林内になっています。



林内には、かなりの密度でケクロモジが群生しています。標高が高いためか背丈はあまり伸びないようです。前出の雑木林と比べて傾斜が緩いために主軸がまっすぐのびて枝が四方に広がっています。簡単にスケッチをして比較してみました。左が傾斜の急な雑木林のケクロモジ、右が傾斜の緩いヒノキ林のケクロモジです。



環境によってずいぶんと樹形がかわっていることがわかります。ただし、ケクロモジの枝振りは両方とも概して直線的な印象があります。だから急斜面で多少しなった感じの樹形になっていても粘りのある樹木のしなった感じとは雰囲気が異なります。





【4. ケクロモジの生える林相と微地形的風土】

阿讃山脈でのケクロモジの出現する地理的条件は、山の北側斜面となる明るい林内で、直射日光の当たらない環境です。ある程度の植物遺体と腐葉土が堆積した少し湿り気のある土壌であることも条件といえます。ですので、この条件を満たせば、雑木林でも、生産林でもその林内にクロモジは群落を形成しているようで、「ケクロモジの樹形の比較」で示した大滝山(海抜945m)の山頂部の杉林の林内でも群落を観ることが出来ます。
今回のケクロモジの生育地は海抜300m程度の阿讃山脈の北側斜面山腹で、土地の利用履歴は40年前までは薪炭林として使われていた雑木林です。現在の林相の概観はコナラとホオノキを樹冠とする林(ホオノキ - コナラ林)となっています。大抵の樹木は株立ちしていて、薪炭林としての伐採の経緯がその景観に現れています。




植相の概観は

高木・亜高木層:ホオノキ、コナラ、クヌギ、トネリコ等
低木層:マルバウツギ、シキミ、ヤブニッケイ、ヤブムラサキ、
ツゲ、ヤブツバキ、イヌガヤ、ヒイラギ、ケクロモジ等



【5. コナラ - ホウノキ林に隣接する林相】

隣接する同様の北斜面の放置薪炭林では、林相が異なっている場所もあります。この対象地に隣接する山林の林相は、ケヤキとヤマザクラを樹冠とする林(ケヤキ - ヤブツバキ林)で、植相の概観は、高木・亜高木層:ケヤキ、ヤマザクラ、コナラ、低木層:ヤブツバキ等、でケクロモジは出現していません。この林相違いは、土壌堆積厚の違いといえます。概観しした土壌の状態は対象地であるホウノキ - コナラ林で植物遺体の土壌堆積物が多く、ケヤキ - ヤブツバキ林で土壌堆積物が少なく岩石が露出しているところが多く見られ、土壌厚の違いとその保水性よって林相の違いが現れていると考えられます。


周囲の放置薪炭林をみても、このような二種類の林相がパッチ状にみられます。こうしたパッチ状の山の林相の特徴を形成する理由として、もともと阿讃山脈の地層がもろく、地滑り多発地であるために滑落崖が山のところどころに形成され、その滑落崖下方に土壌の堆積が起こり、そこにホオノキ - コナラ林が形成されるために(※1: 滑落崖の形成と林相の関係)、点在する崩落状況がパッチ状の林相として現れていると考えれらます。
地形的林相であるホオノキ - コナラ林は直射日光のあたらない明るい林内であるために、低木のケクロモジが出現していますが、いずれ気候的林相に遷移して、アラカシを主体とする常落混交を経てシイ林の極相となると予想されます。そのため、活用目的種であるケクロモジの自然生育環境を維持しながら、ある一定の自然度を保った活用林を形成することを目的とした選択的間伐を試験的に行っていきます。(これを環境保全活用型の景観デザインの手法の一つと考えています。)

※1: 滑落崖の形成と林相の関係
滑落崖の下方に地滑りブロックが出来、その上に植物遺体が堆積し、滑落崖の下方からの地下水の浸出し、堆積した植物遺体を豊富に含んだ土壌を湿潤にするため、陰樹よりも水気を好む陽樹の林相、つまり気候的林相よりも地形的林相を形成する。(参考:「山の自然学」小泉武栄著・岩波新書p38)

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